モノより「やり方」?!-原理・メカニズム-

◆新たな原理・メカニズム!

 

 電子メール。ジェットタオル。交通系ICカード。これらは、紙や布を用いた従来のやり方に代え、全く異なる「原理・メカニズム」を採用して創り出された発明です。いずれも斬新な素晴らしい発明ですよね。

 

 このように、新たな「原理・メカニズム」を利用して従来の課題を解決してみせた発明は、その時代の大発明であることも少なくありません。とはいえ、ちょっと見渡せば、LED照明、電気自動車、無線通信、デジタルカメラ、クォーツ時計などなど、身の回りにあふれていることが分かります。

 

 さらに、かつてブームとなり今また見直されているビジネスモデル発明。その多くも、人間同士が直接会って又は電話などを介して行ってきたビジネスの取引を、クライアント・サーバシステムという新たな「原理・メカニズム」を用いて実現したものです。

 

 ちなみに、既存のビジネスの体系を、単純にクライアント・サーバシステムに置き替えただけの発明では、特許庁は特許発明として認めてくれません。しかし、このような新規の「原理・メカニズム」を採用することで生じる新たな課題を解決したり、通信を利用するが故に可能となる新たな情報のやり取りを行って今までにないメリットを産み出したりすることによって、この発明が「使える特許発明」に成長する可能性も出てくるのです。

 

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◆「やり方」をかえよう!

 

 以上ご説明したように、新たな「原理・メカニズム」を採用した発明は、様々な技術分野で創り出されており、枚挙にいとまがありません。ここで、これらの発明は、よくよく眺めてみると、単に紙や布製の「モノ」を、ディスプレイ、流れる空気や、ICカードといった「モノ」に置き替えただけのものではありません。むしろ、従来の方式を、異なる原理やメカニズム、すなわち斬新な「やり方」に替えたものと捉える方が、発明の本質を突いています。

 

 モノではなく「やり方(方法)」を替える!と考える方が、多くの場合に根本的であり、それゆえに「特許発明」を創り出しやすいのです。

 

IMG_0603 私が今、文章を作成しているこの部屋でまず目につくものは、使用中のPCが載っている「机」です。この机を新しいモノ、たとえばフレキシブルな可撓材?!、で作ることを考えてみるのも面白い発明行為ではあります。

 

 ですが、視点を変え、「机」は私とPCの位置関係を調整するための1つの「やり方」を実施する手段であると考えてみます。そうすれば、これとは異なる「やり方」、たとえばPCを天井からつるす又は壁から突出させる、PCを身体に固定するためのアタッチメントを作る、PCの画面と仮想キーボードを製図台のような机面に投影するなど、荒唐無稽なものも含め色々思いつくものです。

 

 ここで、新たなメカニズム、すなわち「やり方」を採用した特許発明の実例を見てみます。特許第5804045号は、「アノード電極及びカソード電極に、それぞれ燃料ガス及び酸化ガスが供給されて発電を行う固体高分子型燃料電池システム」の特許発明を公開しています。

 

 固体高分子型燃料電池システムは、アノード側の燃料ガス流路に水や不純物が溜まるという問題を解決するため、通常、それらを排出するための「アノード側パージ弁」を備えています。ここで、この「アノード側パージ弁」の検査には、水素(燃料ガス)が用いられてきたのですが、「検査の度に、発電に使われるべき燃料ガスが無駄に消費される」ことが問題となっていました。

 

 この問題に対し、特許第5804045号では、「アノード側パージ弁」を検査することを目的として、燃料ガス経路に「酸化ガス」を供給することのできるシステム構成が、特許性を有すると認められています。

 

 実は、この問題を解決するための従来技術として、エアコンプレッサからの空気によって、アノード側の配管や流路に残留する生成水(凝縮水)を押し出して車外に排出する電動車両の発明が、すでに存在していました。しかし、特許第5804045号では、「アノード側パージ弁」の検査に必要となる酸化ガスの流量計を、特定の位置に設置する構成を明示することによって特許が認められています。これは、単に空気ではなく、まさに燃料を燃やすための「酸化ガス」をパージに使用するが故に必要となったさらなる「工夫」が、認められたものと考えられます。

 

 このように、「アノード側パージ弁」の検査といった1つの技術領域において、従来とは異なる「やり方(原理・メカニズム)」を採用し、従来の技術における課題を解決してみせることは、「特許発明」を創り出すための王道ともいえます。

 

 そして、今までにない「やり方(原理・メカニズム)」を採用することによって新たに生じた課題を、追加の「工夫」で解決してみせることによって、特許として認められる可能性が一層高まるのです。

 

 ここで、この「工夫」が、新たな原理・メカニズムを利用した新システムの下では避けて通ることのできない工夫であるならば、そして、この新システムが今後業界のトレンドとなるならば、この特許発明は、ライバル企業が実施せざるを得ない「使える特許発明」に大化けするかもしれません!

 

 とにかく、まず考えるべきは、従来とは異なる「やり方(原理・メカニズム)」。ネタは身の回りの製品やサービスの中にたくさん潜んでいます。それはすでに世の中に出回っている方法であってもかまいません。発明しようとする技術分野において今まで使われてこなかった「やり方」であるならば、従来のやり方と取り替えてみる思考実験に、さっそくトライされてはいかがでしょうか。

 

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