「使える特許発明」をつくる!

 

ずばり、「使える特許発明」をいかに創り出すか?!これが、このブログのテーマです。

 

 ここで、「使える」とは、事業を伸ばし利益を上げるのに役立つということです。ですから、このブログでは、国が特許と認めるような、しかも役立つ発明をいかに獲得するか?!についてお話しします。

 

 さて、第1話では、イントロダクションとして、

◆発明に先立つ「コンセプト」 ◆言語・ブロック化

についてご説明します。第1話は、これらの2部にわたり少し長くなりますが、おつき合いいただけますようお願いいたします。

 

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「コンセプト」とは?

 

 「使える特許発明」を創り出すためのポイントとして、後に、言語・ブロック化による思考作業をお勧めしますが、実は、これに先立ち、準備しておくべき非常に大切なものがあります。

 

 それは、発明の「コンセプト」です!ここでいうコンセプトとは、「・・・したい!」、「・・・する!」といった意志や決意を表明したものです。

 

 ビジネス、軍事や、スポーツの分野においては、「戦術(How)の前にまず戦略(What)!」、「先に旗(What)を立てよ!」とよく言われますが、「コンセプト」はこのWhatを具体化したものと捉えることができます。創作の前にはこの「コンセプト」が大事となります。

 

 たとえば、スターバックス。世界的に有名なコーヒーチェーンですが、そのCEOのハワード・シュルツは、企業のコンセプトとして「我々のビジネスは、人の腹ではなく心を満たすものだ」と言っています。(このコンセプトからすると、まったく勝手な想像で恐縮ですが、コーヒーの製法特許にもまして、お店の環境設備や調度品、さらにはトータルデザイン(=What)についての特許、登録意匠や 登録商標の取得を推進するのがよいかも知れません。)

 

 また、今日、多くの会社が、「人々に感動を与える商品」、「環境にやさしいサービス」といった、時代に合わせたコンセプトを前面に掲げていることはご存知の通りです。

 

画像1-5 さらに、分野は異なりますが、アインシュタインに代表される理論物理学者は、「よりシンプルな数式で世界を表現する」というコンセプトを羅針盤にして、数々の偉大な理論を発明してきました。

 

 また、有名な例として、「キーボードもスタイラスペンもなし!」。これはご存知のように、iPodiPhoneを創作するときにアップルのスティーブ・ジョブスが宣言したコンセプトです。

 

 ここで、iPodiPhoneにおいてこのコンセプトを実現した際に要となったタッチパネル技術そのものは、少なくとも我が国では「特許発明」になるものではありませんでした。しかし、このコンセプトに導かれて製品の改良・発展を推し進める中で、ユーザインタフェース技術を含めた様々な「使える特許発明」が創り出されてきたのも事実です。

 

まずは「コンセプト」!

 

 このように、「コンセプト」は、創作活動には欠かせません。実際、「使える特許発明」を目指して真っ暗闇を歩き始める際、「コンセプト」は、進む方向を与えてくれるまさに頼れる「手すり」となるのです!

 

 よく、発明をするには「課題」を明確にすることが大事である、といいます。困りごとは発明の母であり、ピンチはチャンスだ!というわけです。まさにその通りなのですが、この「課題」に拘泥して目先の解決だけに執着してしまうと、戦術、すなわち「いかに(how)対処するか」を発明することだけで止まってしまう場合もあるように思われます。

 

 これに対し、「課題」を明確にした上で、「コンセプト」を掲げてそれを実現しようとするならば、戦略、すなわち「なにを(what)実施するか」の答えとして、今までにない斬新な発明を創り出せるのです。例えば、単なる改良ではなく、全く異なる新たな方式・メカニズムを採用した発明などは、その典型といえます。

 

 ちょっと周りを見渡すだけでも、デジタルカメラ、液晶テレビ、ICカード改札、電気自動車、電子メール、ネットオークション、回転寿司などなど、その前身となる技術とは全く異なる新たな方式・メカニズムを採用した発明は、たくさん見つかります。このような斬新な発明もきっと、その時代に合った「コンセプト」の下で創り出されてきたに違いありません!

 

 ちなみに、ここでいう「コンセプト」は、いわゆる「ビジネスモデル」をも含む広い概念です。実際、ビジネスモデル(事業形態)に合わせて知的財産を獲得すべきであることは言うまでもありません。一方、斬新な発明が創り出されることによって、新規の事業が構築される場合もあることは無視できません。したがって、ここでいう「コンセプト」には、いずれの場合でも発明を創り出すベースとなるような広い意味を持たせています。

 

 画像1ー06少し話をかえますが、現在、知的財産分野では、今まさに始動しつつあるIOT(Internet Of Things)時代において、いかに有効な知的財産を獲得してビジネスの勝者となるか?!が盛んに議論されています。

 

 ここで、最重要な戦略として、オープン&クローズ戦略が喧伝されているのですが、この戦略は一言でいうと、「なに(what)」を特許化/秘匿化し、「なに(what)」を独占するか/アライアンスの手札とするか、についての意志であり、ここでいうまさに「コンセプト」なのです。

 

 このように、これからやってくる時代に「使える特許発明」を創り出すためには、「なに(what)」を意図した、時代に合った「コンセプト」を明確に打ち出すことが非常に重要となります。そして、実は、このような「コンセプト」を創作できるか否かが、まさに「使える特許発明」を創り出せるか否かを決する!といっても過言ではありません。

 

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【請求項1】:言語化

 

 次に、「使える特許発明」を創り出すためのポイントとして、言語・ブロック化による思考作業をご説明します。

 

 過去の特許発明を公開した特許公報。まさに発明の原材料の宝庫です。とはいえ、それならば!と特許公報をしげしげと眺めても、それだけでは「使える特許発明」は手に入りません。

 

画像1ー01 そうではなく、自らのアイデアに関連しそうな過去の特許発明、そして自らのアイデアの下で創ろうとする発明の「原理・エッセンス」を理解することが大事です。そのためには、ずばり、特許公報の【請求項1】を読み込んで、その組み立てや使用された文言の意図を把握し、その上で自らも、創ろうとする発明の【請求項1】の作成にトライすることが、とても有効となります。

 

 とはいえ、業界の最前線で技術や知的財産と格闘しておられる方々の多くは、そんなお時間がなかなかとれないこともよく承知しています。実は、このブログは、読むだけでそのようなお時間を体験していただきたい、との思いからはじめたものです。

 

 話を戻しまして、特許公報の【請求項1】は、特許発明の「原理・エッセンス」をまさに言語化したもの(のはず)です。

 

 実際、私自身、日々の経験として、発明者の方からご提示いただいた発明を【請求項1】に言語化する作業は、潜在している発明の「原理・エッセンス」を、無意識の世界から掘り起こして目に見える形にする創作過程そのものだ、と感じています。

 

 また、その過程で、今までにないと思われるようなアイデアを思いつくことも少なからずあるのです!

 

 もちろん、発明を創り出そうとする思考過程に先立ち、まず、頭の中にイメージが浮ぶ場合も少なくないでしょう。いわゆる天才と呼ばれる人たちは、むしろこのような非言語的な直観や思考実験によって大発明を成し遂げてきたのかもしれません。また、頭ではなく実際に手を動かして汗を流す中でこそアイデアは浮かぶものだ、というのも真理の一面でしょう。

 

 しかし、そのような頭に浮かんだイメージやアイデアについても「言語化」する思考作業、もしくは構成要素(ブロック)に還元する、すなわち「ブロック化」する思考作業を行うことが非常に大事なのです。

 

レンガ橋もブロック?!

 

 「ブロック化」、これは、特許の図面でいえば、まさに【図1】(とは限りませんが第一構成図として)の機能ブロック図をつくる作業です。当初、漠然としたアイデアの構成内容を具現化するには、【図1】(機能ブロック図)のイメージを浮かべながら【請求項1】を作成することが、なにより有効です。ちなみに、機能材料の発明でも機能ブロック図をつくることは可能であり、しばしば有効となります。

 

 そして、このようにアイデアを具体化することによって、アイデアにおける不要な構成要素を除いたり、他の技術要素を付加したり、ある構成要素を他の技術要素と取り替えたり、さらには構成要素同士を置き替えたりする、といった発明創作のために欠かせない思考作業が非常に容易に行えるのです。

 

 ちなみに、構成要素を除いたり、付加したり、取り替えたり/置き替えたりすることは、それぞれ、後にこのブログでご紹介することになる発明の定石である「減らし」、「組合せ」、及び「読み替え→類推」に相当する(含まれる)思考作業となっています。

 

 また、このような思考作業によって、より権利範囲の広い(より上位の概念となる)発明や、改良発明、さらには発明技術を新たな用途へ適用した用途発明など、を創り出すこともできるのです。

 

 さらに言えば、このような上位概念化や、改良、用途開拓を目指し、イメージの言語・ブロック化による思考作業に取り組む中で、今までにない新たな原理、メカニズムや、パターンを用いた基本発明のアイデアが「降臨」することも少なくありません!

 

 そもそも、思考するのに必ず用いられる「言語」というものが、いってみれば、単語やフレーズといったブロックの付加、置き換え、さらには入れ替えそのものです。しかも、そのような作業は通常、頭の中でフレーズや文の映像(イメージ)が描かれつつ行われます。ですから、【請求項1】と【図1】(機能ブロック図)をつくる思考作業は、ある意味で人間の頭脳に合った自然な営みであるといえます。

 

 ちなみに、対象を要素(ブロック)に分解するという還元主義的なやり方では、真の創造は産まれない、との批判もよく聞かれます。全体を捉えた上での直観的なひらめきこそが大事だ、というわけです。

 

画像1-4 たしかに画期的なアイデアは、レンガ(要素)を地面から1つ1つ積み上げて造ったレンガ倉庫というよりは、全体を一挙に完成させたとしか思いようのないアーチ状のレンガ橋のようなものかも知れません。新たな発明の絶妙な構造が一体となってドーンと「降臨」するのでしょう。

 

 しかし、レンガ橋も、特徴のあるレンガのかたまりに分解することができるように、このようなアイデアも構成要素に分けて理解することが可能であり有効であると考えます。もちろん、その分け方は便宜的・人為的であり、どう分けて理解するかが大事とはなりますが。

 

 また、実際には、言語・ブロック化の思考作業自体が、ところどころで起こる小さな「降臨」によって支えられていると感じます。

 

 さらに言えば、特許庁での特許の審査でも、出願発明を構成要素に分解した上で従来技術と対比し、進歩性の有無を判断しています。ですから、「特許発明」を取得しようと思えば、発明を構成要素に分解した上で、先行技術と比較してその優れたところはどこかを主張できるようにしておくことが大切となるのです。

 

 ちなみに、全体を一挙に完成させたとしか思えないアーチ状のレンガ橋ですが、後のブログ第12話でご紹介する発明創作手法:「組合せ」+「減らし」によって創り上げることができます。具体的には、足元から順次、アーチ下の空洞部分も埋めるように、レンガのかたまり(構成要素)を積んでいき(「組合せ」を行い)、最後に、不要となったアーチ下のレンガ群を取り外します(「減らし」を行います)。これにより、レンガ橋タイプの「発明」が完成するのです。これは、最後に上手く「はしご」を外して、技術を宙に舞わせる感じでしょうか。

 

 また、後のブログ第13話でご説明する「読み替え→類推」によっても、このレンガ橋タイプの「発明」を創り上げることができます。「読み替え→類推」は、後に詳しくご説明しますが、「参照分野」の発明技術に基づいて「発明分野」での技術を新たな発明に「読み替え」ることを基本とした発明定石です。多くの場合、「参照分野」におけるレンガ橋タイプの発明技術に基づき、一挙に新たな発明への「読み替え」が行われて、レンガ橋タイプの「発明」が完成します。これは、思考空間という「宇宙」では足元から積み上げずとも、すでに宙を舞っている技術をまねて一挙に発明できる!といったイメージでしょう。

 

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 以上、ご説明したように、「使える特許発明」を創り出すためには、言語・ブロック化による思考作業と、それに先立つ「コンセプト」の設定とが重要となります。このブログでは、次号から、

◆過去の特許発明を参照しつつ「使える特許発明」を創り出す!

◆発明創作のベース:「コンセプト」を考える!

のいずれか又は両方をテーマとしたお話をご提供していきたいと考えております。今後とも、お付き合いいただけますようお願いいたします。

 

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