組合せ!AIには負けないぞ!

 

◆「組合せ」は基本かつ最強のツール

 

 「組合せ」は、「発明」を生み出すための基本です。「発明」をつくれ!と言われたら、とにかくそれを考えるぐらい「組合せ」は有効な手法となっています。

 

 たとえば、回転寿司。元禄産業(株)の創業者白石義明氏が、ビール製造工場のベルトコンベアにヒントを得て考案し、1962年には実用新案登録されたようです。製造・運輸の技術と食品・外食産業の技術とを組み合わせた非常に有名な「発明」です。

 

 このように、互いに異なる分野の技術同士を組み合わせることによって、「特許発明」が生み出される可能性も高まります。

 

 また、アーミーナイフ。ハサミや鋸、定規や栓抜きといった道具が組み合わされて1つの携帯具となったものです。このように単なる「組合せ」に見えるアーミーナイフには一見、特許性は存在しないように思えます。しかし、内実は、それらの道具をコンパクトに収めた上で軽量化・頑強さを実現するための「工夫」が多数なされています。

 

 さらに(技術思想としての発明に該当するかは別にして)、最近、書店と喫茶店を組み合わせたスタイルの店舗が街中に出現しています。これも見たところ、従来のものを単に組み合わせただけのようです。ですが実際には、組み合わせる際に客の回転率や客単価を考慮して、本棚、座席やレジのレイアウトに相当の「工夫」が施されています。さらに(想像ですが)、書籍の汚れ対策、保険などにも様々な「工夫」がなされているかもしれません。

 

 このように、新規の「発明」をするならば、とにかく「組合せ」してみてはいかがでしょうか。そして、「組合せ」の結果として必然的に生じる問題・課題を「工夫」で解決してみせれば、この「組合せ」発明の特許性も高まります!

 

 ここで1つ、特許発明の例を挙げます。特許第5810330号では、コードレス電話装置と、携帯型音楽プレーヤとを組み合わせた発明が特許となっています。

 

 具体的には、コードレス電話装置において、親機を携帯型音楽プレーヤの外部スピーカとして使用し、かつ子機を携帯型音楽プレーヤのリモコンとして利用する特許発明です。

 

 この特許発明の特許庁での審査では、親機が音楽プレーヤの外部スピーカとして機能することや、子機が親機のスピーカの音量を遠隔操作すること、さらには、子機を用いて親機に接続された音楽プレーヤを遠隔操作するような構成は、公知であるとされました。

 

 それにもかかわらず、この特許が認められたポイントは、子機が親機を中継装置として音楽プレーヤを遠隔制御するわけではなく、あくまで親機の制御部が制御する、という構成を明確に規定したことにあります。この構成によって、「遠隔操作のためのリソースの切り替え等の複雑な処理の発生を抑制でき、音楽再生装置との連携を容易に向上」できるとしたのです。

 

 この例のように、構成要素の接続関係や、外部から分かる作用効果からすると、従来技術の単なる組合せに見えるようなシステムでも、その内部での処理に何らかの「工夫」や「選択」をもたせれば、特許として認められるものが少なくありません。

 

 実際、2つの従来技術の「組合せ」によって新しい技術を創り出す場合、組み合わせるための「工夫」が生まれるものです。また、「工夫」とまではいかなくとも、何らかの「選択」をする場合もあります。これらの工夫・選択を明確に規定し、発明の構成要素とすることによって、この新しい技術を「特許発明」にすることが可能となるのです。

 

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◆「思考ネットワーク」と「環境ネットワーク」の「組合せ」?!

 

 では現実に、発明者において「組合せ」の妙が湧き出すのは、どのようなメカニズムによるのでしょうか。

 

 それは、多くの場合、発明者の「思考(ニューラル)ネットワーク」と、「環境(ソーシャル)ネットワーク」とが連携して機能することによります。

 

画像10-2-2 発明者の「思考ネットワーク」とは、発明者の思考や直観によって生み出されたアイデアをアウトプットとする、ずばり頭脳です。

 

 一方、発明者の「環境ネットワーク」とは、発明者の身の回りの環境であって、たとえば、所属している会社の研究開発部門、取引先や同業もしくは異業種の会社の社員さんグループ、所属する学術学会、外部の研修グループ、大学時代の友人コミュニティ、論文などの資料にアクセスできる環境などです。また、インターネット検索サイトや、将来的には人工知能(AI)なども、「環境ネットワーク」に該当するでしょう。

 

 発明者自身の「思考ネットワーク」から生まれたアイデアと、発明者の身の回りの「環境ネットワーク」から収集された様々なアイデアとを材料にし、「思考ネットワーク」での考案又は選別を経て、新しい「組合せ」の発明が創り出される、というわけです。

 

 1つの分かりやすい例として(上述した事実とは全く異なる作り話ですが)、「にぎり寿司」を値段毎に異なった色のお皿に乗っけてお客さんに提供するアイデアを、「思考ネットワーク」からアウトプットした発明者を考えます。

 

 この発明者は、大学時代の友人グループである「環境ネットワーク」から、製造・運輸の分野で頻用されているベルトコンベアの技術(アイデア)を入手します。すると、自らの「思考ネットワーク」においてぐるぐる回る輪になったコンベアを考案又は選別して、自らの「異なった色のお皿」のアイデアと組み合わせることにより回転寿司システムの発明に至る!というわけです。

 

 また、別の例となりますが、このブログ第3話でお話ししたように、今話題のIOT(Internet Of Things)やAI、さらにはフィンテック(金融+情報技術)が関係する分野では、発明の主役が多くの場合、自然・物理法則の制約をあまり受けず、それ故「組合せ」を行いやすい「情報」となります。

 

 そう考えると、ここでも、「思考ネットワーク」由来の情報と、「環境ネットワーク」由来の情報との連携で生まれた「組合せ」の発明、言ってみれば個(ユーザ・端末)と社会(外部環境)の連携プレーとしての「情報」の発明が多く創り出されそうです。

 

 いずれにしても、以上の2つの「ネットワーク」を考えてみると、たとえば、研究者の方が、技術情報の集積した研究所という「環境ネットワーク」内に自らの「思考ネットワーク」を置いておくことによってこそ、優れた「発明」が創り出されるのかもしれません。

 

 言いかえると、「使える特許発明」を創り出すのは、単純に発明者個人と言い切れるものではなく、発明者内外の「ネットワーク」である、ともいえるでしょう。(これは改正された職務発明制度とも絡む論点です。)

 

 常日頃、多くの研究者の方に接していて思うのですが、優秀な研究者の方ほど、発明創作において、ご自身の「思考ネットワーク」の優れた脳内結合係数だけに頼ることはなさっていないようです。むしろ、ご自身の「環境ネットワーク」に関するお話をされることが非常に多い。察するところ、多種多様な「環境ネットワーク」を持つように心がけておられるようです。

 

 そして、ご自身の「思考ネットワーク」から出たアイデアと、「環境ネットワーク」から出たアイデアとを色々組み合わせてみて、テストしておられる印象を受けます。おそらく研究部門でその「組合せ」を披露し、多くの研究者の意見を収集されているに違いありません。

 

 ある意味、絶妙な「組合せ」を神がかり的に思いつくというよりは、「とにかく「組合せ」を形作ってみて提案・テストする」ことに秀でておられるのではないか、と感じます。

 

 そう考えると、「組合せ」のアイデアにおける組み合わせる部分そのものは、個人の「思考ネットワーク」での処理を経ずにアウトプットされる場合もありそうです。実際、発明相談の場においては、誰からともなく「それを組み合わせてみたら?!」といった形で、参加メンバー間での「文殊の知恵」によって「組合せ」が完成することもしばしば経験します。

 

 いずれにしても、「思考ネットワーク」と「環境ネットワーク」の境界、簡単に言えば自他の境界、があいまいになるぐらいに反応が起こってこそ、「使える特許発明」を創り出せるのかもしれません。

 

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◆注目すべき「環境ネットワーク」

 

 以上お話ししたことからすると、個々の発明者の立場では、多種多様なアイデアを収集できる「環境ネットワーク」を持っていることがとても重要となります。

 

 特に、「環境ネットワーク」としては、できるだけ発明者の所属する分野とは異なる技術分野など、とにかく「異なる」ものを含むことが望まれます。極端な話、異なってさえいれば、たとえば「高い技術力を有する優秀な組織・個人」とのネットワークである必要はないのかもしれません。

 

 ちょっと変わった「異なる」分野の「環境ネットワーク」として、現実世界の生物群・生態系も注目すべき1つです。今話題となっているバイオ・ミメティックス(生物模倣)というやつです。

 

画像10-1 たとえば、新幹線500系の先頭車両の形状は、カワセミのくちばしを模倣した発明です。その他、サメ肌の水着、ミツバチの巣(ハニカム)状の建築資材や飛行機の翼、蚊の針を応用した注射針や、蓮の葉の表面構造を模倣して作った食品容器のフィルムなどが、よくメディアでも紹介されています。

 

 さらに、注目すべき「環境ネットワーク」として、大企業・組織の保有する休眠特許や戦略特許の無償開放があります。

 

 たとえば、トヨタの燃料電池関連の特許無償開放。特に、水素ステーション関連の特許については無期限での無償開放となっています(実施条件の協議は必要らしいですが)。また、パナソニックは、いわゆるスマート家電などのIOT分野の特許を、期間制限なしに無償開放しています。さらに、海外とはなりますが、テスラやNASAの特許無償開放も有名です。

 

 また、大事なものを言い忘れましたが、J-PlatPat(特許情報プラットホーム)などの特許情報検索システムも、大変役立つ「環境ネットワーク」です。特許公報に記載された発明は、まさに特許となった発明の「成功例」と言えます。

 

 「成功した人のやり方を真似るのが、ビジネス成功の第一歩!」と言われているように、他人の成功したアイデアである特許発明を大いに「勉強」するのは大変良いことと考えます(もちろん特許権の存在する発明をそのまま真似てはいけませんが)。そもそも特許制度の趣旨からして、公開された(特許)発明技術の利用・積み重ねによって産業を発達させることが重要である、とされているのです。

 

 なお、特許発明を勉強する際には、できればですが(言うは易しで大変ですが)、発明しようとしている技術とは異なる分野の特許公報も興味をもって探索することがよいと思われます。

 

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◆絶妙の「組合せ」:AIを僕(しもべ)に!

 

 以上では、発明者の「思考ネットワーク」と「環境ネットワーク」との連携から「組合せ」の発明が創り出されるお話をしました。この連携について、今話題のAIなんかに負けないぞ!というお話を、最後にいたします。

 

 さんざん考え、考え疲れた後に「ふっと」思いつく。思考と思考の間に創造性が潜む、とよく言われますが、新しいものを写真乾板のように受け取る「感覚」的なときに創造力が発揮されるようです。

 

 そうだとすると、自分の「環境ネットワーク」にアクセスすることは、自分の「思考ネットワーク」と「思考ネットワーク」の間に、創造的な空隙を意図して積極的につくろうとする行為である、ともいえます。

 

 ですから、「環境ネットワーク」からアイデアを取得しようとする際には(たとえば、異なる業種の研究者と議論をするとき)、「頭」だけではなく「身体」や「感覚」で受け取るのが基本だと思います。外部からのアイデアは、頭でとらえるのではなく「身体」で聞く。たとえば、ひたすら外部からのアウトプットを観察・吸収したり、外部のその人と密接な(人間的な)コミュニケーションをとったりすることです。

 

 人間は、「感覚」が勝っているときは「思考」が抑制され、また、その逆もしかりです。「環境ネットワーク」において話を聞くときは、批判・評価をせずに、まずはそのまま「受け取る」ことが、絶妙の「組合せ」を創り出す第一歩です。

 

 ただし、この「身体」で聞く創造的空隙をつくることができるのは、とことん真剣に考えた「思考」と「思考」の間だけなのかもしれません。「思考」が考え尽くされて完了した場合にのみ、次の「思考」との間で、この「身体」で聞く空隙ができるのです。

 

 ここで、人間の頭脳を真似て構成されており、思考や、さらには直観までも強力に実現するのであろうニューラルネットワークをベースにしたAIを考えてみます。あくまで個人的見解ですが、以上に述べたような「思考」と「思考」の間の創造的空隙までは、このようなAIでは実現できないのではないでしょうか。

 

 この創造的空隙は、神秘的とまでは言いませんが、少なくとも体「感」的であり、デジタル化の困難な情報を取り込み可能な、高い身体「感覚」が関係しているのだと思われます。

 

 もしそうだとすると、「環境ネットワーク」からアイデアを取り込んで絶妙の「組合せ」をつくることは、AIには到底無理かなと感じます。ただし、この身体「感覚」まで取り込んだ人工身体&頭脳システムができて、「社会的なつながり」をつくり始めたら分かりませんが。

 

 要は、このような創造的空隙は未来の予兆を取り込む「感覚」を備えた「新しい」ものであるべきなのに対し、機械「学習」の際にインプットされるデジタル化可能な情報は、たとえどんなに膨大であっても所詮過去の「旧い」ものである、ということでしょうか。

 

 さらに言えば、絶妙な「組合せ」の発明だけでなく、そもそも発明創作に必要な「コンセプト」も、生活空間や社会という「環境ネットワーク」から「感覚」的に創り出すものだとすると、AIに創作させることは無理でしょう。

 

 この点について、最近、「AI社長」が実現するかもしれないという記事(日本経済新聞 平成28年5月17日付)を見つけました。たとえば、過去の新聞記事や社内データを解析して経営議題の判断材料を提示するシステムのようです。だた、このようなAI社長では、参謀的な経営判断はできても、過去に存在しない新しい時代に向けた、会社を導く「旗(コンセプト)」を立てることまではどうでしょうか?

 

 結局のところ、絶妙の新しい「組合せ」を創り上げることでは、AIには負けないぞ!ということです。

 

 さらに言えば、AIを良き僕(しもべ)、すなわち優れた「環境ネットワーク」の1つとして活用し、人間様は、「組合せ」の「使える特許発明」創作に邁進するのがよい!のではないでしょうか。

 

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