目指すは「用途」?!

いざというときに使える?!

 

 唐突で恐縮ですが、電気自動車に蓄えられた電力を自宅で利用する!なんてことが可能な時代になりました。具体的には、電気自動車のプラグに、受電装置から伸びたケーブルの先のコネクタを接続し、この受電装置を介して宅内に電力を供給するようです。

 

 では、自宅内に電力を供給するのはどのような状況でしょうか。まず考えられるのは、商用電力の供給が停止、すなわち停電したときでしょう。実は、このような「特定の場面や状況」で発揮される機能や作用・動作を明確にすることによって、思いついた発明を「特許発明」にできることも少なくありません!

 

 実際、電気自動車からの電力を宅内に供給可能な充放電装置であって、商用電力の「供給が停止しても使用可能である電源の電力を用いて」コネクタとプラグの接続を検出する充放電装置が、特許(特許第5815895号)となっています。

 

 このように、ある「特定の場面や状況」で特に効力を発揮する、という技術は結構存在します。このような技術において、所定の場合には「こうして、こうなるので、こうする」といった作用・動作を特定して追加してやることで、この特定事項を含む技術は「特許発明」である、と認められるケースも少なくないのです。

 

画像2-1 例えば、スマートフォンのタッチパネルに対し、指で操作を行って多種多様な入力を行えることは周知の技術ですが、ここで、「特定の場面や状況」の1つとして、入力操作を受け付けないロック状態を考えてみます。

 

 このロック状態を、例えば「所定のアイコンに接触させた指を、所定の方向へ払うように移動させる」ことによって解除する新たな操作を考案したとします。このように、ロック状態という「特定の状況」で機能する新規の操作を、タッチパネル入力の発明に付加することによって、特許の認められる可能性が生じるのです(もちろん、これは現在では特許になりませんが)。

 

 このような発想をさらに突き進めると、いわゆる「用途発明」に行き着きます。1つの技術を、従来利用されてきた用途とは別の用途に利用して、その用途に特有の効果を生み出した場合、この技術は新たな用途の発明として特許される可能性が生じます。

 

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造語です:「用途特定発明」

 

 「用途発明」は、化合物等の物質特許によく見られます。例えば、ダイナマイトの原材料として発明されたニトログリセリンが、後に、狭心症の薬としても有効であることが発見されました。これは、ニトログリセリンの血管拡張作用によるものですが、用途発明の典型例として有名です。

 

 上記の充放電装置の特許(特許第5815895号)も、見方を変えれば、移動手段としての電気自動車を、非常用電源という新たな用途に適用した「用途発明」である、と捉えることも可能です。

 

 ただし、この「用途発明」との用語は、特許庁の審査基準において、「ある物の未知の属性の発見に基づき、その物の使用目的として従来知られていなかった一定の目的に使用する点に創作性が認められた発明」であると規定されています。

 

 そこで、このブログでは、より広い概念、すなわち、「あるモノや方法の発明を、特定の用途・目的に適用・応用するための発明」といった意味で、「用途特定発明」との造語を使わせていただきます。

 

画像2-2 今日、人工知能(AI)、ディープラーニングや、ビックデータ解析といった技術用語が世間をにぎわせていますが、これらの先進技術の核となる手法が「機械学習」です。この機械学習を利用した発明は、今後も多数産み出されることでしょうが、その多くは、ブラックボックスとしての機械学習アルゴリズムを、特定の用途・目的に適用・応用した「用途特定発明」の形をとる、と考えられます。

 

 例えば、歩行距離、ガソリン給油量や、水道使用量といった人々の日常生活に深くかかわるデータから、所定の機械学習方法を使用して、次にヒットする商品・サービスを予測する、といったマーケティングのための「用途特定発明」が考えられます。この場合、機械学習機能に対するインプット(特徴量)とアウトプットを具体的に何にするかが、特許として認められるか否かの重要な判断要素となります。

 

 従来、機械学習など全く適用されていなかった技術分野(用途)において、機械学習を用いて必要となる情報をアウトプットすると仮定すると、はたしてどのようなインプットが適しているのか、を想像することも面白いことです。そのようなインプットを行うこと自体は少なくとも、今までにない新規な手法であることに間違いありません。

 

 ちなみに、スマートフォンなどにダウンロードして利用される、いわゆる「アプリ」は、アプリケーション・プログラムの略称です。ここで、アプリケーション(application)との単語は本来、適用や、応用といった意味を持っています。ですから、新しい発明としてのアプリは、特定の用途・目的のために構成されたプログラムの「用途特定発明」であるといえます。

 

 したがって、従来よく知られたアルゴリズムであっても、それらを組み合わせ、今までにない用途に特化して作り込まれたアプリは、「用途特定発明」として特許される可能性があるということです。

 

 ここで少し話をかえますが、今日、新聞紙面にも登場する「オープン&クローズ戦略」。これは、このブログの第1話でもご紹介したように、何を特許化/秘匿化し、何を独占するか/アライアンスの手札とするか、についての知財戦略の具体的「コンセプト」です。

 

 1つの例として、事業のコアとなる計算プログラムや、デバイスなどの特許発明を取得したケースを考えてみます。また、この基本となる特許発明が、様々な事業分野や、種々の製品・サービスに適用可能であるとします。この場合、オープン&クローズ戦略をもってこの基本特許発明を世の中に広く普及させる!という「コンセプト」の下、特許の観点からすると、このあと何が大事となるでしょうか。

 

 それは、それらの多様な「用途」についての具体的な「用途特定発明」の特許権を取得することです。

 

 その上で、例えば、上記の基本となる特許発明については、外部に対して一切ライセンスなどを行わずクローズとし、一方、それに付帯して取得した「用途特定発明」の特許権についてはオープンに展開していく、という手筈をとることができます。

 

 このようなオープン&クローズ戦略と「用途特定発明」については、さらに展開してお伝えしたいことがありますので、この第2話はこのあたりで閉幕にし、第3話で詳しくその内容をご説明したいと思います。

 

 以上、いずれにしても、「用途特定発明」は「使える特許発明」になり得る!ことが理解していただけたのではないでしょうか。

 

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