進化ゆえの矛盾こそ次の進化への原動力!

◆「工夫」を重ねよう!

 

 このブログ第7話では、将来への期待(と少々の不安)を象徴するような技術である「ロボット」と「無人飛行機」の進化についてお話を進めます。

 

画像7-1 まず、センサを備えたロボットと、遠隔の制御装置とを通信ネットワークで接続したロボットシステムの発明を考えます。この制御装置がロボットからセンサ情報を受信し、このセンサ情報に基づいてロボットの動作指令を送信する発明において、特許性が生じるのはどのような場合でしょうか。

 

 1つは、ロボットがセンサ情報を送信するやり方に「工夫」のある場合です。ただし、このような工夫として、たとえば、「ロボットがサンプリングしたセンサデータをその都度、制御装置に送信するのではなく、所定数のセンサデータをまとめて送信する(ことによって制御装置でのデータ処理を円滑にする)」といったような技術は、すでに周知であって特許にはなりません。

 

 ここで、特許性が認められるのは、このような送信の「工夫」ゆえに生じてしまう障害・デメリットを解消する「工夫」をさらに付け加える場合です。

 

 たとえば、ロボット制御装置が、ロボット可動部の加速度データを所定周期のデータセットとして受信し、「ロボットの動作指令値、パルスエンコーダの出力値、及び加速度データの時系列に基づいてロボットの振動を抑えるための補正動作指令値が求められ、該補正動作指令値によって動作プログラムが再度実行」されるロボットシステムが特許(特許第5815664号)となっています。

 

 この特許発明では、まず、ロボットからのデータ送信時間を短縮して信頼性の高い学習制御を行うという「課題」を、「複数回の周期分の加速度データを含むデータセット」をロボットから制御装置に送信するという「工夫」をもって解決しています。次いで、この「工夫」ゆえに発生した、リアルタイム性が確保されていない状況下で適切な制振制御を行うという「課題」を、「補正動作指令値」を求めるさらなる「工夫」によって解決し、ここで特許が認められました。

 

 次に、無人飛行機です。飛行状態を検出するセンサと、動翼を動かすアクチュエータとを備えた無人飛行機を、制御装置で制御する発明を考えます。この制御装置は、センサからの出力情報に基づいて動翼を動かす制御信号を生成し、この制御信号をアクチュエータに送ってアクチュエータを動作させるものです。

 

 ここで、このような制御装置を、無人飛行機に設置するのではなく、無線飛行機と無線ネットワークで接続された地上の操縦設備に設けるといったような発明は、当然ですが、すでに周知であって特許性を有しません。また、それならばと、このような制御装置を、無人飛行機と操縦設備の両方に設置し、飛行制御機能の冗長化を図って制御の信頼性を高める「工夫」を行ったとしても、この「工夫」もすでに公知となっています。

 

 しかし、このような飛行制御機能の冗長系を有する飛行制御システムに対し、地上の操縦設備において、無人航空機から送信されたセンサ出力信号に基づいて算出した演算結果データと、無人航空機から送信された演算結果データとを比較し、制御装置に異常が発生したか否かを判定する機能を付け加えることによって、特許の認められた事例(特許第5808781号)が存在します。

 

 この特許発明では、まず、無人航空機の遠隔操縦における制御の信頼性を高めるという「課題」を、複数の飛行制御装置によって飛行制御機能の冗長系をつくるという「工夫」をもって解決しています。次いで、この「工夫」ゆえに発生した、いかに飛行制御の異常を発見するかという「課題」を、「両演算結果データの比較」というさらなる「工夫」によって解決し、ここで特許が認められています。

 

 以上「ロボット」と「無人飛行機」という典型例で示しましたように、通常、新たに開発された制御システムでは、制御の信頼性を高めるなどの「課題」を解決するために1つの「工夫」を行うわけですが、この「工夫」自体は、その技術分野ではよく知られた技術であったり当然に思いつく程度のものであったりすることも少なくありません。

 

 しかし、この「工夫」を行ったことによって新たに生じた「課題」に対し、さらなる「工夫」を重ねることによって、この制御システムの発明が「特許発明」となり得るのです!

 

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◆「矛盾」こそ原動力!

 

 ここであらためて、上述した「ロボット」と「無人飛行機」の特許発明を見てみると、結局いずれも、同時に解決することが容易ではない2つの「課題」をまとめて解決するものとなっています。

 

 実は、多くの特許発明は、このように同時解決が通常困難な、矛盾する又はトレードオフの関係にある2つの「課題」をまとめて解決しており、また、それゆえに特許が認められているのです。

 

 ここで、矛盾する2つの「課題」を、1つの簡単なしかし容易には思いつかない手段で「一挙に」解決して見せたとしたら、この発明は「使える特許発明」になる可能性が高いといえるでしょう。

 

 たとえば、料理において、食材を加熱する方法が「焼く」か「煮る」かしかなかった時代を考えてみます。(ちなみに、料理は、いろいろな発明のパターンを考察する際、非常に良いメタファーを提供してくれます。というか、料理自体がまさに「発明」の宝庫となっていますので、このブログでも今後、料理の事例をいろいろ使っていきたいと考えています。)

 

 このような時代では、「焼いた」ときのように食材を焦がして固くすることなく加熱するという「課題」と、「煮た」ときのように食材のうま味を外に逃がすことなく加熱するという「課題」とは、同時に解決することができずトレードオフの関係にあったわけです。

 

 これに対し、衣をつけた食材を加熱した油に入れる発明である「天ぷら」はまさに、両課題を一挙に解決します。この「焼く」か「煮る」かしかなかった時代に特許制度があったならば、「天ぷら」は必ずや偉大な「使える(お店を繁盛させる)特許発明」になっていたに違いありません!

 

 ここで、「天ぷら」という大発明に至る直前に、まず、食材をそのまま加熱した油に入れるという「素揚げ」の発明が創り出されたとします。これにより、食材を焦がしたりすることなくしかも食材の溶水性の成分を逃すことなく美味しくいただけるようになったわけです。そして、そんな「素揚げ」であっても、いや、「素揚げ」であるが故に解決する必要の生じた、食材の容油性の旨み成分や水分を保持するという「課題」を解決するため、ついに、衣をつけるという「天ぷら」の発明に至ったのだとします。

 

 そうであるならば、まさに、「素揚げ」という料理の進化のゆえに生じた、矛盾する又はトレードオフ関係にある「課題」があったからこそ、次なる進化である「天ぷら」という大発明が生まれたことになります。この場合、「一挙」に課題を解決してみせたわけではありませんが、結果的に、それに相当する素晴らしい発明にたどり着いているのです。

 

 すなわち、進化ゆえの「矛盾」こそ大進化への原動力!というわけです。

 

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◆系統樹を駆け巡ろう!

 

 少し話をかえますが、先にご紹介した無人飛行機の特許発明。この特許発明は、綿々と続く「飛行機」の発明についての進化「系統樹」の梢上に位置している、と考えることができます。

 

画像7-2 「飛行機」の特許発明では、20世紀初頭に有人動力飛行を成功させたライト兄弟のものが有名ですが、その後も、ジェットエンジンや自動操縦システムなど膨大な数の特許発明が創り出され、「飛行機」発明の一大進化「系統樹」が形成されてきました。

 

 この「系統樹」は、たとえば、機体の強度を高め且つ重量を軽減させるという相矛盾する「課題」を解決する「工夫」や、空気抵抗を低減させ且つ揚力を向上させるという相矛盾する「課題」を解決する「工夫」など、進化するゆえに生じる「矛盾」を成長起点として伸びた幹や枝からなっているのです。

 

 発明創作の場では、このように「課題」を解決する「工夫」を行い、この「工夫」を行ったゆえに生じた「課題」を解決する「工夫」をさらに行い、・・といったサイクルが繰り返されていきます。これにより、多くの改良発明特許や、利用発明特許、さらには新たな原理・メカニズムを用いた発明特許が認められ、発明進化の「系統樹」が成長していくのです。

 

 ここで、この発生する「課題」と「工夫」との一連の発展経路は、例えば生物進化の系統樹における1つの「枝」のように、どこかで行き止まりに突き当たることも事実です。生物の場合は、ここで、その種は絶滅してしまうわけです。

 

 しかし、「特許発明」の創作では、生物進化とは異なり、この発明進化の「系統樹」を遡って過去の時点に立ち戻ることが可能です。すなわち、現在の「課題」を生じさせている枝の付け根の幹まで立ち戻って別のルート、たとえばすでに別方向に伸びている枝をたどってもよく、さもなければ新たな枝をそこから伸ばしてもいいのです。さらに、枝の付け根まで戻らずとも、枝の途中の節(途中の工夫)の前に戻って、この節とは別の工夫を考えてみることもできます。

 

 ちなみに、1つの「従来技術」をなす枝の付け根の幹に立ち戻って別ルートを探ることは、この「従来技術」のそれとは異なる「発明構成要素」を備えた「新規性のある技術」を必然的に求めることになっています。すなわち、特許審査の観点からしても、「特許発明」を創り出しやすいやり方であるといえます。

 

 実際に、発明創作の場において、頭の中で「ああでもない、こうでもない・・」と思考を凝らしているうちに疲れてしまい、思考の空白が生じた際に、ふっとその空白に浮かんでくるアイデア。その多くは、無意識に「系統樹」を遡ってみて又は「系統樹」全体を俯瞰してみて発見した又はつくり出した「樹枝」のようにも感じます。

 

 たとえば、飛行機発明の「系統樹」において、「主翼の枚数を増やし翼面も大きくする」という方向に伸びた「枝」を進むことを諦め、この枝を遡って幹に戻り、ここで、主翼はスマートな左右1枚ずつのものにした上で「プロペラを使わない、より強力な推進手段を採用する」という新たな「枝」を伸ばす、といった感じでしょうか。

 

 したがって、1つの技術分野において、新たな特許発明を創り出そうとする場合、この技術分野の「系統樹」を頭に叩き込んでおき、思考散策のための古地図として利用すれば、懸案の「課題」を見事に解決する「工夫」を思いつくこともできるのではないでしょうか。

 

 では(最後になりますが)、ある意味巨大な迷路でもあるこの「系統樹」を、どのように駆け巡って「使える特許発明」を創り出せばいいのでしょうか。ここで、このブログ第1話でも登場した「コンセプト」が大事となります。

 

 発明進化の「系統樹」において、「矛盾」に突っ込んででも前進しようとしたり、来た道をあえて遡って別方向に伸びた枝を探検する労をとったりするための原動力は、ずばり「コンセプト」です。

 

 たとえば、「キーボードもスタイラスペンもなし!」との「コンセプト」をかかげたからこそ、アップル社は、ユーザーインタフェース装置の巨大な「系統樹」において途方に暮れて挫折することなく、iPodiPhoneといった斬新な「樹枝」を伸ばすことができたのではないでしょうか。

 

 もしかしたら、生物進化の系統樹も、発明進化の「系統樹」も、実は、進化主体者の携えた「コンセプト」によってその形が決定されている?!なんていうのは、言いすぎでしょうか?これは神のみぞ知る、なのかも知れません。

 

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