人為的な取り決めOK?!-ビジネスモデル-

◆後々が大事!

 

 かつてブームとなり今また見直されている「ビジネスモデル」発明。この発明の多くは、ネットワーク通信を用いたクライアント・サーバシステムをもって従来のビジネス体系を再現又は発展させたものです。とはいえ、従来体系をクライアント・サーバシステムに焼き写しただけでは、特許庁は、まず特許として認めてくれません。

 

 これは、従来からあるビジネスにかかわる情報を、通信ネットワークを介して自動的に送受信させたとしても、そのこと自体は「人為的な取り決め」にすぎず、そこに高度の創作性は認められないから、といえます。

 

 ちなみに、我が国の特許法の解釈では、集客のノウハウや商取引のテクニックそのものは、単なる「人為的な取り決め」であって自然法則を利用していないのでそもそも「発明」ではない、とされます。これに対し、上記のクライアント・サーバシステムを利用したケースは、コンピュータや通信ネットワークといったハードウェア資源(自然法則)を利用しているので「発明」としては認められます。

 

画像5-1 ここで、上記のケースにおいて、端末からビジネスについてのリクエストを受信したサーバが、「人為的な取り決め」に基づいてある情報を決定し、この情報をもってレスポンスを行う、といった工夫を考案したとします。しかし、このような当業者が容易に思いつく程度の工夫内容では、その発明の進歩性はまず認められません。

 

 ただし、例えば、この端末が、受信したレスポンスの内容に応じて再度リクエストを行い、次いで、このリクエストを受信したサーバが、先に決定した情報に基づいたレスポンスを再度行うとすると、ここまでの全体のプロセスに対し、進歩性の認められる可能性が生じます。

 

 すなわち、「人為的な取り決め」に基づいて決定された情報であっても、その後の取り扱い方次第で、例えば取引において再度利用することによって、特許される可能性が出てくるのです。

 

 また、このような特許発明は、そのビジネスで通常依拠するところの「人為的な取り決め」を含むのでその業界では実施されやすく、また、出力された結果を見れば内部で実行された処理が分かる場合も少なくないのです。したがって、権利範囲の広い且つ侵害認定の難しくない「使える特許」をもたらしてくれるかもしれません。

 

 なお、このようなビジネスモデル特許発明の例として、顧客から残高要求を受信した銀行システムが、法律等の「人為的取り決め」に基づいて算出された支払可能残高を含むレスポンスを行う発明が特許になっています(特許第5823356号)。これは、このブログの最後でも触れますが、いわゆるフィンテック特許となっています。この発明では、残高要求に続いて出金要求を行った顧客に対し、先に算出した支払可能残高に基づいた判断を行って支払を実施する、という追加の限定補正を行うことで特許が認められました。

 

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何をオークションする?

 

 ビジネスモデル発明といえば、PRICELINE社の(顧客が値段を指定する)「逆オークション」米国特許が有名であるように、オークション関係のものがよく見られます。このオークションモデルの発明において、「人為的に取り決められたもの」を落札対象としたというだけでは、通常、進歩性は認められません。

 

 しかし、実際には、「人為的に取り決められたもの」であっても、ネットワーク・オークションでは従来取り扱わなかった特異なものであれば、それを取り扱う発明は、特許として認められる可能性が出てきます。

 

 例えば、制作された「コンテンツと異なるコンテンツとして広告が表示される広告枠に広告を表示することができ、かつ、当該広告枠に表示される広告を差し替えることができる権利」と合わせて、「プロダクトプレイスメントにより広告が表示される広告枠に広告を表示するができ、かつ、当該広告枠に表示される広告を差し替えることができない権利」をも落札対象に加えることで特許が認められたケース(特許第5793538号)が存在します。

 

 ここで、特許性判断のポイントは、このような「人為的に取り決められた」オークション対象が、当業者にとって容易に思いつくものではないかどうかということです。上記の特許のオークション対象がそのようなものに該当するかどうかは、実際の現場では判断の難しいところがあるかも知れません。ですが、このレベルの「取り決めの特異性」をもって特許が認められていることも事実です。

 

 したがって、特許出願の明細書には、技術性を有さない「人為的な取り決め」であっても、権利化したい事業で取り扱う可能性の高いものであれば、公開の許される範囲で具体的に記載しておくことが大事です。それが意外であって且つ有効な取り決めであったり、発明を事業として実施する際には必須の取り決めであったりすればなおさらです。最終的に、その記載しておいた「人為的な取り決め」で請求項を限定することで、「使える特許発明」を獲得できる場合も少なくないのです。

 

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誰にどうオークションする?

 

 オークションのビジネスモデル発明について、さらに別のケースを考えてみます。当初、落札対象の情報をその一部に限定して参加者に提示し、提示を受けた参加者からの要求に応じて、落札対象についての追加の情報をさらに提示する発明は、公知であって特許性はありません。

 

 また、「人為的な取り決め」、例えば提示された情報の取り扱いに関する契約事項など、に基づいてオークションの参加者そのものを限定したとしても、そのことによって発明の進歩性が認められることは、まずありません。

 

 すなわち、「人為的な取り決め」に基づいて、情報の送信元や受信先を限定したり、やり取りされる情報を選択したりすることには、通常、特許性は生じません。

 

 しかし、「人為的な取り決め」に基づいて、参加者を限定し、且つこの限定した参加者に応じた内容の落札対象情報を選択して提示するとするならば、進歩性の認められる可能性が生じます。すなわち、このように限定された送信元や受信先との間で、このように選択された情報をやり取りするとなると、特許となる可能性が出てくるのです。

 

 実際の事業では、オークションの参加者にしろ、落札対象の情報にしろ、何らかの「人為的な取り決め」をもって限定・選択されているはずです。オークション事業の特許化を図る際には、潜在化しているそのような取り決め事項を余さず掘り起こし、言語化する作業が重要になる場合も少なくありません。なお、このことは、その他のビジネスモデル事業を特許化しようとする際にも、そのまま当てはまります。

 

 ここで、特許性判断のポイントとなるのは、このような取り決めが関係する具体的構成によって、今までにない顕著な効果が生み出されるのかどうかです。ちなみに、ここでいう効果は、取引速度が速くなる、といったような技術的なメリットに限られるわけではありません。例えば、秘密契約などの「人為的な取り決め」が奏功する、すなわち不要な秘密の漏えいが防止される、といったようなビジネス・社会上の利益であってもかまいません。

 

 例えば、広告枠に広告を表示する権利を落札対象としたオークションにおいて、コンテンツの企画内容を示す企画情報の一部を広告主に提示し、閲覧した広告主からの要求を受け付けた場合に、提示した企画情報の一部以外の他の情報を提示する発明が特許になっています(特許第5793537号)。この発明では、要求を受け付ける広告主を「企画内容の盗用又は漏洩を禁止する規約に同意した広告主」に限定し、さらに、「企画情報の一部以外の他の情報として、公開することが許可されていない項目」を提示するという追加の限定補正を行うことで特許が認められています。

 

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お金のことだけでなく。

 

画像5-2 最後に、フィンテック特許。これは、簡単に言えば、決済などの金融業務を遂行するための情報技術(IT)についての特許です。今、知財業界では大きな話題の1つとなっています。

 

 ただし、実際には以前から、金銭のやり取りを含むビジネスモデル発明は数多く出願されてきました。ビジネスにおいて金銭の融通は取引を成立させるためにも必須となるのですから、金融の絡む発明が多いのは当然でしょう。

 

 このような発明の特許性について考えてみます。例えば、クライアント(顧客や仲介事業者)の預金を管理するサーバ(サービス提供事業者)が、その「預金残高」に基づき、クライアントに対して提供するサービスの内容を制限する技術は概ね公知であり又は進歩性がなく、特許性は認められません。

 

 このように、ビジネスモデル発明ではしばしば登場する金額情報ですが、金額情報に基づいてサービスの提供を調整すること自体は、通常の商取引での「人為的な取り決め」に相当し、特許性を生じさせることはまずありません。この点、お金は「人為」の最たるものだというイメージも、特許になる邪魔をしているのかも知れませんが。

 

 しかし、このサーバが、「預金残高」だけではなく、このサーバの知り得るクライアントに関する他の情報にも基づいてサービスの内容を制限するならば、進歩性の認められる可能性が生じます。すなわち、金額情報以外の情報にも基づいて、サービス提供の制御を行うとなれば、特許となる可能性が出てくるのです。

 

 ここで、この金額情報以外の情報が、普段は考えつかないような意外なものであれば、またそれにもかかわらずサービス提供の制御に適した情報であれば、特許性は一段と高まります。

 

 ただし、逆に言えば、当業者ならば比較的容易に思いつく情報を、この金額情報に合わせて採用しただけにもかかわらず特許になったならば、この特許発明は、簡単な構成に基づくが故に、権利範囲の広い且つ回避しにくい「使える特許発明」になるかもしれません。この場合、その情報と金額情報との組み合わせの妙が認められた、ということになります。

 

 以上ご説明しましたビジネスモデル特許の例として、特許5820777号では、「残高確認情報」に加え、「第2の事業者の運用に係る複数のゲーム機におけるゲームが所定の確認時期にあるか否かをゲーム機ごとに判別」した判別結果の情報にも基づいて、ゲームのプレイに制限を生じさせるとの限定を行うことで特許が認められています。

 

 この特許発明のように、金額情報以外の情報に基づき、複数のクライアントのうちからサービス提供の制御を行うものを選択する、といったことも特許性を高める1つのパターンとなります。もちろん、金額に応じて調整されるサービスをさらに制御・選択するための情報として、通信ネットワークを利用することで初めて得らえるような情報、例えば唐突ですが気象情報サーバとか交通情報サーバなどからの情報を用いると、一層特許性が高まるでしょう。

 

 実際、API(Application Programming Interface)さえ公開・統一されれば、様々な業種にかかわる(多種多様な情報を扱う)スタートアップ企業が、金融機関や金融を扱う新規参入企業と、通信で「自由に」つながることができます。そうなれば、フィンテックの発明は、その多くが、お金の情報と、従来お金とは結びつかなかった多種多様な情報とを一緒に合わせて処理し、今までにないより高度な(より上位階層の)情報をアウトプットするものになりそうです。

 

 このように考えると、フィンテック発明は今ならば、その結びつきの意外性だけで、大変「使える特許発明」に化けることもありそうです!このブログ第10話でお話しする「組合せ」のなせる業となるでしょう。さらに言えば、第12話でお話しするように、「減らし」も合わせて適用することにより、社会的により高度な形で(より上位階層において)各段に便利になる(「手間」を減らす)発明となるのではないでしょうか。

 

 そして、その絶妙な「組合せ」や「減らし」を実現するガイドとなるのは、やはり、このブログ第1話でお話しした「コンセプト」です。特に、「組合せ」については、「思考ネットワーク」と「環境ネットワーク」の協働作業が要となるのですが、そこでの具体化→抽象化→具体化の思考作業にこそ、「そもそも何が欲しい?」の答えである「コンセプト」が効いてきます。このあたりの話は、今、まとめている最中でして、後日、改めて1つの話題としてご紹介します。

 

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