「組合せ」と「減らし」で発明の高みに!
◆「組合せ」で上位階層化!
「組合せ」と「減らし」。これらが発明創作の基本的な「定石」であることは、このブログの第10話と第11話で詳しくご説明しました。実は、これら2つの対照的な「定石」は、合わせて用いることによって、しばしば、1つ上の「階層」に達する「発明」を創り出す強力なエンジンとなります。
「組合せ」を行うことによって、発明の「階層」が一段高くなることは、いろいろな所で見受けられます。たとえば、生き「物」の話とはなりますが、細胞と細胞が組み合わされて1つの器官ができたり、1つの動物(多細胞生物)が構成されたりします。さらに、人間という動「物」が集まって社会や国家が組織されたりもします。
ここで、ミソとなるのは、細胞と細胞の「組合せ」によって同じ細胞という「階層」ではなく、より上位の「階層」である器官や動物になるということです。このことは、デバイスの「組合せ」によって装置がつくられ、装置を「組合せ」ることでシステムが構成される、といった場合にも言えることです。
さらに、このような「物」の組合せだけではなく、「情報」の組合せでも同じことが言えます。いや、むしろ「情報」は、物理法則にあまり拘束されず、「組合せ」のタイプや自由度が非常に大きいという意味で、その上位階層化にはより多くの可能性が存在します。
分かりやすい例では、AI(人工知能)などの機械学習システムに、多数のセンサ出力や装置ログにかかわる物理的な情報(下位階層の情報)をインプットして「組合せ」を行い、人間社会にとって有益なメンテナンス情報やマーケティング情報など(より上位階層の情報)をアウトプットさせる場合です。
ここで、アウトプットされる「情報」は、たとえばですが、人間社会のどの「階層」にとって有益・便利なのかを基準として、それと対応する「階層」構造を形成するものと捉えることも可能です。
また、「情報」通信の分野では、OSI参照モデルを構成する「階層」も分かりやすい例となります。OSI参照モデルは、異なる通信機器間でのデータのやり取りを実現するための通信プロトコルを7つの「階層」に分類して定義したものです。
OSI参照モデルは、あくまでも通信プロトコルを階層化したものです。しかし、見方によっては、最下位「階層」である物理層でのビット・バイト「情報」の膨大な「組合せ」から始まって、最終的には、最上位「階層」であるアプリケーション層で取り扱うプログラムデータという「発明」を構築する枠組みを提供するものと捉えることもできます。
さらに、「情報」の「組合せ」にかかわる別の例として、ツイッターでのつぶやきを集めてブログにし、ブログの内容をまとめて電子書籍を出版する、なんていうのも上位「階層」発明の創作例といえるでしょう。
具体的には、単発の考えや一感情を表現した下位階層の「つぶやき情報」の「組合せ」によって、最終的には上位階層化した、すなわち1つの主張・思想を著わした「電子書籍」という発明が創り出されます。
以上、「組合せ」によって「階層」構造をなす「発明」を創り出すお話をしました。特に、今話題のフィンテックやIOT+AIにおけるシステムの「発明」は、多くの異分野の技術・情報を「組合せ」たそのシステマチックな様相からして、以上にご説明したような「階層」構造を強く意識した発明となります。
ちなみに、「発明」がどの「階層」にかかわるのかを意識することは、そのような「組合せ」システムの中で、単独のプログラム・APIの「発明」や、材料・デバイスや装置の「発明」を創り出す際にも非常に重要なことです。
一般に、権利行使において「使える」特許発明は、実際のビジネスの現場では、よりピンポイントの技術に係る発明となります。たとえば、システム全体よりも装置、装置よりもデバイス・材料の「発明」の方が、権利行使に用いやすいのです。
しかし、そのようなピンポイントの発明であっても、システムにおける1つの「階層」において必須且つ要となる技術であればこそ「使える」ものとなるわけです。
ですから、自社の事業にかかわる「階層」はどこなのか、この「階層」での必須且つ要となる技術は何なのか、を十分に見極めることが「使える特許発明」を創り出すために決定的に重要となるのではないでしょうか。
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◆「減らし」で完成!
次は、「減らし」です。「減らし」の重要な役割の1つは、「組合せ」によって構成された技術に対してこの「減らし」を行い、上位階層化した「発明」を完成させる、というものです。
このブログ第10話でもお話ししたように、「組合せ」はある意味、えいやっ!と行われることも多く、ルールに縛られない遊びのようなところがあります。このように、とりあえず「組合せ」られた技術は、上位階層の「発明」として進歩性有りとは言えない場合も少なくありません。
ここで、この「組合せ」られた技術に対し「減らし」を行使することで、「発明」に進歩性を生じさせるのです。これは、曖昧な言い方ですが、「合体」が成功したときの少し「減る」感覚ともいえます。
今、私が出願代理している案件で、まさにこのような「減らし」の凄さを感じさせる例があります(特許になれば、出願人様のご承諾の下、ご紹介する予定です)。
具体的には、構成要素A、B及びCからなるA→(B+C)の技術と、構成要素D、E及びFからなる(D+E)→Fの技術とを「合体(組合せ)」させた上で、(B+C)を(D+E)として利用することにより、「減らし」の発明A→(B+C)→Fを完成させる、というものです。
これは、このブログ第11話で「減らし」の一類型としてご紹介した「構成要素の多機能化」によるものと捉えることもできます。
また、まったく別の例ですが、細胞の組合せにより構成される動物という発明は、「減らし」によって生物として完成します。具体的には、各細胞がバラバラであればそれぞれが重複して取り組むであろう各種物質や信号の入出力を、血管系、神経系やリンパ系などを介して統合し効率化しています。また、必要な機能を細胞群(器官)毎に割り当て、機能分化を促進させてブロック化・シンプル化も行っているのです。
さらに、ビット・バイト「情報」の「組合せ」によって、または、アルゴリズムに従いブロックを「組合せ」ることによって構築されるアプリケーション・プログラムは、実際には高級プログラム言語を用いて構成されることによって完成します。これは、まさにシンボル化でありシンプル化であって、すなわち「減らし」を行っている、と捉えることもできるのです。
ちなみに、このブログ第1話で、全体を一挙に完成させたとしか思えないアーチ状レンガ橋のタイプの「発明」についてお話ししました。実は、このレンガ橋タイプの発明も、「組合せ」+「減らし」によって創り上げることができます。具体的には、足元から順次、アーチ下の空洞部分も埋めるように、レンガのかたまり(構成要素)を積んでいき(「組合せ」を行い)、最後に、不要となったアーチ下のレンガ群を取り外します(「減らし」を行います)。これにより、レンガ橋タイプの「発明」が完成するのです。これは、最後に上手く「はしご」を外して、技術を宙に舞わせる感じでしょうか。
以上ご説明したように、「減らす」ことによって上位階層化した「発明」を完成させることができます。実は、これが、ブログ第11話でもお話ししたように、「減らし」によって「手間」も「減らす」ことができる理由となります。
実際、「発明」の上位階層化は、人間や社会にとって、より便利になったりより広く「使える」ようになったりする方向であるといえます。すなわち、所望の便益を得るための「手間」を「減らす」方向です。ですから、「減らし」を行い「発明」の上位階層化を完成させることによって、一般に「手間」も「減らす」ことができるのです。
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◆「物」と「情報」が表裏をなしてもつれ合う?!
さらに、発明が「階層」構造化する場合、発明主体となる「物」と「情報」とが表裏をなしてもつれ合うことも少なくありません。
たとえば、記号論理学におけるブール代数という1つの「階層」の発明(厳密には発明ではありませんが)においては、ブール論理という「情報」が主体となって、論理演算素子という「物」の機能を具現化します。次いで、コンピュータという、より上位「階層」の発明においては、「物」としての論理演算デバイス群などが主体となりチューリングマシンをなして、様々な「情報」を処理します。
また、コンピュータ同士を通信線で接続した通信ネットワーク・システムという、さらに上位「階層」の発明においては、通信線を介してやり取りされる「情報」やコンピュータで処理される「情報」が主体となって、あるデザインされた仮想空間における現象としての「物」を演出し、取り扱います。
ここで、仮想空間は、たとえばRPG探検ゲームにおける探検先の荒野や、株取引アプリにおける株式市場です。また、この仮想空間での「物」は、たとえば荒野に出現するモンスターや、取引される株券となります。通信対象及びプログラム処理対象としての「情報」によって、モンスターをやっつけたり株券の売買を成立させたりするというわけです。
したがって、たとえばフィンテックやIOT+AI関連の発明のように、「階層」構造化しやすい「発明」を創り出して特許出願しようとする場合、その「発明」では、「物」と「情報」のいずれが表となって、いずれが裏となるかをよく見極めることが重要です。
その上で、請求項の構成要素及び要素間の関係を決め、用いる用語や表現を適切に選択することが大事となるのです。
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最後に。以上ご説明しました発明創作方法は、ある意味、当たり前のやり方かもしれません。ただ、「定石」を意識して利用することは大事です。是非、「組合せ」と「減らし」を駆使し、「発明」の高みをめざしてはいかがでしょうか?