AI+IOT=「用途」?!

◆AIとIOTと「用途」?!

 

 前回のブログ第2話では、人工知能(AI)と「用途特定発明」の関係、さらには、オープン&クローズ戦略(コンセプト)と「用途特定発明」の関係について簡単にご説明しました。

 

 ちなみに、「用途特定発明」とは、「あるモノや方法の発明を、特定の用途・目的に適用・応用するための発明」であり、いわゆる用途発明よりも広い概念を取り扱うための造語です。

 

 この第3話では、上記の「用途特定発明」についての2つの関係を融合させ、展開してみます。どうぞおつき合いのほど、お願いいたします。

 

 前回第2話において、事業のコアとなる計算プログラムや、デバイスなどの特許を取得したケースをお話ししました。この基本となる特許発明が、様々な事業分野や種々の製品・サービスに適用可能である場合、このあと、特許の観点からは何が大事となるのか?

 

 それは、それらの多様な「用途」についての具体的な「用途特定発明」の特許を取得することでした。もちろん、ここで大前提となる「コンセプト」は、オープン&クローズ戦略をもってこの基本特許発明を世の中に広く普及させる!というものです。

 

 例えば、架空の話とはなりますが、極低消費電力で駆動する、量子計算アルゴリズムを採用した超小型の汎用人工知能(AI)チップを開発し、これについて複数の基本特許を取得したとします。上記の「コンセプト」を大前提とするならば、これらの基本となる特許発明は、外部に対して一切ライセンスなどを行わずクローズとします。すなわち、この汎用AIチップそのものの製造・販売は独占するということです。

 

 一方、この汎用AIチップの用途に関する「用途特定発明」。例えば、今頭に浮かんだものですが、ある専門分野における論文、報告書や、講義などのテキスト・画像・音声情報を入力し、その内容を、ユーザの知識・第一言語・その語彙力のレベルに合わせて容易に理解されるように解説するコンテンツを出力するためのアプリやAPI、なんていうのができそうです。

 

 このAIチップで作動するそのような様々なアプリやAPIに関する「用途特定発明」の特許については、例えば協会・コンソーシアムをつくり、会員には低額での又は無料でのライセンスを行ってアプリ作成のための技術を開放します。これにより、結果としてユーザが各種アプリを利用できる環境が整い、コアとなるAIチップを利用した製品・サービスの普及が図られるというわけです。

 

 このように、「用途特定発明」は、オープン&クローズ戦略のような「コンセプト」を実現するにあたり、非常に重要な役割を果たし得るものです。「用途特定発明」は、基本的な特許発明をまさに「使える特許発明」にするために威力を発揮する、ともいえます。

 

画像3-1 ここで、もう一歩踏み込み、今日さかんに喧伝されているIOT(Internet Of Things)をからめてみます。このIOTは、人間の感覚器官及び神経網に相当するものと捉えると、人間の脳に相当するAIと結合させてこそ、1つの生命体のごとくその機能をフルに発揮するのではないでしょうか。

 

 ちなみに、その際、神経を流れるのはビックデータであり、また一方で、AI(脳)によって駆動される「手足」となるのは、ロボット、人工筋肉、自動運転車や、交通信号系、はたまた、インテリジェント生産設備や、自動株・債券取引装置、といったところでしょうか。

 

 このように、IOTとAIとは非常に相性が良さそうであり、車の両輪のごとく、互いに相手の機能を高め合う形で進化していくであろうことは容易に想像されます。(ただし、さきほど例示した超小型の汎用AIチップについては、Internetを使わず例えばスマートフォン内で閉じた系を構成するのにも適している、といえますが。)

 

 そこで、IOTとAIの結合システムを考えてみます。1つの例として、このシステムにおける各種センサを搭載したセンサモジュール、大量のログを発生させる情報処理装置、AIの基本アルゴリズム若しくはチップ、又はAIの「手足」となる駆動系について基本となる特許を取得したとします。

 

 そうすると、例えば、センサモジュールやログを発生させる情報処理装置とAIとの間の、さらには、AIと「手足」である駆動系との間の「インタフェースのかたち・とり決め」や「やり取りされる信号・情報」についての「用途特定発明」をさらに創り出し、特許にすることが大事となります

 

 ここで、これらの「インタフェースのかたち・取り決め」や「やり取りされる信号・情報」について、その業界で「標準化」することができれば、この「用途限定発明」はますます回避し難いものとなります。

 

 このように、基本特許発明であるセンサモジュール、情報処理装置、AIアルゴリズム、又は駆動系をある「用途」で利用する際に、必ず使わざるを得ない上記のような「用途特定発明」を知財化しておき、例えば、リーゾナブルなロイヤルティでライセンスするのです。

 

 以上説明しましたように、「用途特定発明」は、IOTとAIの結合システムにおいても、まさに「使える特許発明」になり得るのです!

 

 なお、AIに関しては、まだ、その将来の具体的な形態が見えませんが、いずれ先に挙げたような「汎用」AIが開発されると考えられます。人間の脳を超えるようなその機能・ポテンシャルも当然予想されるところです。したがって、その際は、汎用AIについての1つの技術的工夫が、複数の特定「用途」にまたがって奏功することは大いに考えられます。すなわち、「複数用途特定発明」や「用途範囲特定発明」が多数創り出されるかもしれません。

 

 さらに言えば、「用途」そのものを、汎用AI自らが開拓していくことも十分にあり得ます。汎用AIがあらゆる分野の莫大な量の情報を食べて「こんなアウトプットを出すこともできるぞ!」と言うわけです。ただし、こうなってくると、次にご説明するように、以上に設定した「コンセプト」を考え直す必要があるかもしれません!

 

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◆「コンセプト」が異なれば。。

 

 そこで、以下、「コンセプト」によって「使える特許発明」も変わってくる、というお話をします。以上に述べたオープン&クローズ「コンセプト」の下では、基本特許発明はクローズ、すなわち排他的に独占するというものでした。これは、例えば、新開発AIチップのIPコアについての特許は、命令セットの利用許諾であるアーキテクチャ・ライセンスを含め一切、他社に使用させない、といったイメージです。

 

 一方、これとは対照的な戦略をとるのが、低電力プロセッサのIPコアで有名なARM社です。ARMは、基本的に、自社が獲得したCPUの基本必須特許を自ら実施したりせず、また、自社商標の付されたチップを製造・販売することもありません。

 

 そうではなく、ARMは、共生を「コンセプト」とした上で、自社の基本必須特許について、プロセッサ・ライセンスやアーキテクチャ・ライセンスを行い、他社に、ARMのIPコアが入ったチップや、ARM命令互換のCPUの製造・販売を行わせることを基本としています。

 

 例えば、クアルコム(Qualcomm)社のモバイルSoC(System on a Chip)として有名なスナップドラゴン(Snapdragon)。スナップドラゴンのアーキテクチャの一部は、ARMからのアーキテクチャ・ライセンスの下、ARMの命令セットに基づいて構成されています。

 

 とはいえ、ARMは、共生を「コンセプト」とする以上、例えば、通信用チップや、その上で作動する通信アプリケーションについての「用途特定発明」の特許化に重点を置くことはなさそうです。また、ARMは、同じくCPUに関するライセンスをアップル社にも供与していますが、アップルが取得したようなデバイス特許を先取りして、オープン戦略を展開することも考えにくいところです。

 

 このように、事業対象・形態を勘案し、どのような「コンセプト」を採用するかによって、大事となる取得すべき特許発明も変わってくるのです。

 

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◆「コンセプト」をどうする?

 

 さらに、話は飛びますが、基本特許発明が物質発明であるケースはどうでしょうか。例えば、これも架空の事例ですが、200℃でも超電導状態を維持するセラミック材料を開発し、この超電導材料についての物質そのもの及びその製法の基本特許を取得したとします。

 

 この場合、この基本となる物質特許発明及び製法特許発明はクローズとし、その「用途特定発明」をオープンにするといった「コンセプト」は有効でしょうか。

 

 たしかに、この「用途特定発明」として、例えば、この超電導セラミック材料を、線材に加工する方法、半導体基板上で微細加工パターンにする方法や、ゲル化して布等の表面に塗布する方法、といったようなものを考えることはできます。

 

 しかし、このような「用途特定発明」を特許にして、例えば、線材メーカー、半導体製品メーカー/ファウンドリや、化学メーカーにこの特許のライセンスを供与するにしても、そもそもこれらのメーカーに対し、まず最初に、基本となる物質特許や製法特許のライセンスを供与することの方が大事ではないでしょうか。

 

 実際、この超電導セラミック材料についての「用途特定発明」は、多くの場合、その物質そのものをまず「かたちづくる」ことによって、すなわち、基本となる物質又は製法特許発明を実施(利用)することによって初めて実施することができるのです。

 

 さらに言えば、このような基本特許についてのライセンスを行うだけで、この超電導セラミック材料を広く普及させるとの目的は十二分に叶う、と考えることもできます。すなわち、この場合、「用途特定発明」は、AIチップの例ほどには重要視されないかもしれません。

 

画像3-2 ちなみに、例えば、この超電導セラミック材料を用いた医療用機器についての「用途特定発明」の特許を取得してこちらをオープンにし、一方で、材料そのものの製造・販売は一切許諾しない、という戦略(コンセプト)を立てることも考えられます。

 

 しかし、このケースでは、この超電導セラミック材料の広範な普及を達成するためには、適用可能な様々な「用途」についての「用途特定発明」の権利化が必要となり、それが結局非常に大きな負担となりそうです。

 

 また、さらに別のケースとなりますが、IOTとAIの結合システムにおいて、ある基本となる物質特許が取得されたとします。例えば、このシステムにおいて要となる大容量ストレージに使用される新規の量子スピン材料について、特許が獲得されたケースです。

 

 このケースでは、いかにオープン&クローズ戦略を適用しやすいIOTとAIの結合システムとはいっても、この物質特許を、戦略の中心となるクローズ領域に据えるのは難しいと考えられます。

 

 その理由は、(少しアバウトな捉え方とはなりますが)通常、物質発明におけるインプットは物理的な作用であってアウトプットは物理的な現象であり、このような物理的作用・現象は、結局そのままではInternet(通信)に乗らないから、といえそうです。そのため、「物質」発明の付加価値が、やり取りされる「情報」の方に移ってしまうのです。一方、例えばAIチップにおけるインプット及びアウトプットはいずれも「情報」そのものであり、そのままInternetに乗りやすいものとなっています。したがって、インプット及びアウトプット自体が、事業で直接取り扱う、しかも特許でコントロール可能な対象となるのです。

 

 IOTとAIの結合システムでは、システムの構成要素(装置or事業主体)をつなぐ情報やロジックが、技術的特徴の主役となりそうです。そうだとすると、要となる特許も、情報の(前後での処理・変換を含む)受け渡し方である「インタフェースのかたち・とり決め」や、情報の流れである「やり取りされる信号・情報」についてのものとなるのではないでしょうか。

 

 以上、説明が長くなりましたが、事業対象・形態を勘案した上で、戦略「コンセプト」を何にするかに依存して、「使える特許発明」も変わってくることが分かっていただけたのではないかと思います。設定する「コンセプト」次第では、「用途特定発明」が「使える特許発明」になるということです。

 

 また、裏を返せば、「使える特許発明」として何を創り出すべきか?!を正しく判断するにあたり、最初に、適切な「コンセプト」を掲げることが決定的に重要となるのです。

 

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